マルセ太郎公演メモ

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1.ハイエナをなぜ嫌うのか
2.アニョハセヨー韓国
3.浅草、あの頃

 

1.ハイエナをなぜ嫌うのか マルセ太郎の動物談義
                   平成9年2月18日(渋谷ジァンジァン)
 
【近況報告】
 癌の再発─1センチのがひとつ。ある女優さん「1個でよかったわねえ!」
 肝動脈塞栓法─正常細胞は1/3 だけ、だが癌細胞は 100%依存。だから効果的。
 抗癌剤の副作用─食べ物がおいしかったら、もう幸せと思わなきゃね。
 金沢で小5の授業─存在と意識、どっちが先。君は神を見たことがある?

【動物談義】
 サル年の正月、サル芸がうれた。雨中の高崎山ロケ再現。
 日本の猿学は世界一(京都大学)。野性の馬から野性の猿の研究へ。
 モモコちゃん元気? 親泣かせな話。大学は? 京都です。大分? 旭化成ですか? 
 イモを洗う猿。海水で塩味をつける。小麦の選別をする。(年寄りはダメ)
 マウンティングとプレゼンティングで上下関係を確認する。
 グルーミング。好きな奴はゆっくり、嫌いな奴は手速くサッサッとやる。

 百獣の王はライオンか。ライオンは格好だけ。←人間が外見で決めている。
 ハイエナはぶさいく。三角目、汚い毛、尻さがり。
 だが草原の掃除屋はウソ。ライオンだって、きたない。
 ライオンはジャンプ力があるが、ハイエナにはない。ハイエナ裁判。
 ハイエナの求愛。女王に「おねがーい」。強いオスは「なっ、いいだろう」
 ダメなオスは一生独身で過ごす。きびしいルール。
 岡光次官の収賄、気持ちはわかるよ。判ひとつで何十億も動くんだもの。
 百獣の王は何といっても象だね。草食、家族愛。涙がでる。
 小象と三上寛の息子。親子うりふたつ、もうそのまま。

 自然界はオスが美しい? 孔雀のオス。羽を広げユッサユッサ歩く。
 きれいなオスはだいたい浮気者。おしどり夫婦なんて嘘。
 オーストラリアのコヤドリのオスは実にまめ。あの手この手でメスの気をひく。
 小屋づくり、ダンス。メスの登場。「なんだろう?」 鳥はみな考え深げだ。
 対照的なのがアホウドリ。飛び方からして不格好。滑走しないと飛べない。
 不器用な横ゆれ求愛、交尾。おいおい、しっかりやれよ。

【動物映画】『ベイブ(子豚)』と『グース(雁、ガチョウ)』
 役立たずの子豚とあひるは食べられちゃうよ、とペルシャ猫。
 羊はまるで毛皮を着たおかまだね。「あーら、まあ、えらそうに」
 ベイブが牧羊犬に勝つ。アメリカン・ドリーム!
 制作スタッフはうまい酒が飲めたことだろう。
 グースの卵をかえし、育て、超軽飛行機で米国縦断する。
 夕空をグースが飛ぶ姿は圧巻。涙がでる。
 自殺しようとする女性。ハトが「どうしたの?」。自殺を思いとどまる。

【アッテンボローの世界】
 花の知恵。油で蜂をすべらせ、その羽ばたきで蜂に花粉をつけ、子孫を残す。
 蝶のような花(擬態)。蝶がメスと間違える。羽に花粉をつけて遠くへ運ぶ。
 
 自然の大きなサイクル。自然のしくみの偉大さ、不思議さ。
 自分のためにしてることが、知らないうちに他者のためになっている。
 これで「死ねる」と思った。
                 
2.アニョハセヨー韓国!  マルセ太郎トークライブ
                 〔Beフリー 10.11.21〕
・帰路の済州島日報。金大中大統領の写真よりぼくの写真のほうが大きかった。
・往きのソウル空港。歓迎のたれ幕。美人女優がぼくに抱きつき、涙を流す。
 新聞が「末期がんのマルセ太郎、ふるさとで最後の公演」などと騒いだらしい。

・在日韓国人といってもさまざま。ぼくはずっと韓国行きをためらってきた。
 民族教育を受けなかったから言葉がわからない。だが今回、行ってよかった。

・ぼくは日本人ではない。かといって韓国人でもない。チョソンである。
 ぼくには民族の血が流れている。『泥の河』のキッちゃんをやって、そう感じる。
・日本に帰化したことはいい、だけど、なぜ金でなく金原なのだ、と息子。

・永さんが「韓国はアジアのラテン」と言ったが、当たっている。
 声が大きく、けんか早い。自己主張が強い。(おい、なんだ、そこは俺の席だぞ!)
 トリ人間はうけたが、サル人間はうけない。ペコペコする人なんかいない。

・韓国は年寄りを大切にする社会だから、年寄りをけなす話もうけない。
 ぼくが煙草を吸うまで、ぼくがごちそうに箸をつけるまで、みんな待っている。

・若い人の姿勢がいい。目が輝いている。がんばれよ、と声を掛けたくなる。
 地下鉄に乗ると、若い人がバネじかけのように立って席を譲ってくれる。
 昔の日本を見るようだ。いまの日本の若い人たちはダレている。

・日帝は朝鮮の文化を破壊しようとした。その傷痕があちこちに見える。

・インタビューに慣れてくると、翻訳劇の主人公みたいな台詞を言うようになる。
 謙遜はよくない。「映画なんてわからない」と黒沢監督。それはないだろう。

・済州島は石と風と女ばかり? たしかに女がよく働く。ぼくの女房も済州島。
 思ったより豊かな島。観光だけじゃなく、朝鮮人参やみかんが取れる。

・祖父の墓参り。風水でつくるから墓が散在している。よその土地を通る。

・家系台帳によると、ぼくは光州にある金家の33代目だという。もう、みんな親戚。
 ただし、台帳に女の名はのってない。

・父の妹、84歳。ぼくの顔を両手ではさみ「アボンが顔だけ戻ってきた」と感涙。

・充実した9日間だった。何年もの時を過ごしたよう。時間って何だろう?

                            
3.浅草、あの頃           ジァンジァン最終公演[1/10.2000]
1.ジァンジァンとの縁 
  初めてジァンジァンに出たとき、客数 280人。超満員だった。
  永さんが入場整理をしながら「舞台はどれくらいあればいい?」と聞く。
  たたみ1畳あればいいと言ったら、本当にそれだけ残して客を入れた。
  舞台の横に、色川、山藤、和田さんたちが、審査員よろしく並んでる。
  泥の河などをアクション入りでやった。デビューは劇的だった。

2.プランB 
  一人客の話。昼間見た映画『瀬戸内少年野球団』のウソをあばいた。
  教科書を墨でぬったら、子供は嬉しくてはしゃぐよ。悲しまない。
  戦犯の話がウソ臭い。マドンナと地元の女の子との関係があいまい。
  それに比べたら『泥の河』はよくできている。

 ・ある晩、客席で永六輔の笑い声が聞こえた。
  「さっき永六輔、来てた?」「うん」「何か言ってた?」「ううん」
  「何も言ってなかった」「うん」「あ、そう・・・」 
  もともと、ぼくはああいうものわかりのよさそうな人は嫌いだった。
  翌日、速達はがきがきた。感激、ただ感激。

3.新劇志望
  ぼくは新劇の役者になりたかった。「暗い」のがいい。
  それにインテリっぽい。岡田英二とかね。
  インテリは眠らない。いつもポケットにアドルムをしのばせている。
  ぼくは豚みたいに眠れちゃう。コンプレックスを持っていた。
  自然主義、浪漫主義なんて、むずかしそうなことを言ってる。
  なんのことはない。本の解説を受け売りをしてるだけ。

 ・若い人へ! 大人は偉そうに見えるが、なってみると、たいしたことはない。
  新劇の役者も偉そうに見えるが、たいしたことはない。
  みんな、売れた売れないで一喜一憂している。そんなもんだよ。
  ただ、世間の人の評価はだいたい正しい。素直に従ったほうがいい。
  一生懸命やって、だめだったら方向を変える。また一生懸命やる。
  そうやっていれば、落ち着くべきところに落ち着く。

4.日劇ミュージックホール
  「天井桟敷の人々」のルイ・ジュベを見て、パントマイムをやろうと決めた。
  ふつうは、まず浅草に出て、日劇ミュージックホールを夢見る。
  ぼくは日劇ミュージックホールに出て、それから浅草に行った。

 ・そのオーディションに合格した。
  「ダイホントリニコイ」の電報。うれしかった。仕事ができる。
  名前も決められていた。「マルセル太郎」 いやだったけど仕方がない。
  台本は「ルンペン、現る」、それだけ。パントマイムは受けなかった。

 ・芸能社の世話でしばらく銀座で仕事をしたが、その後はさっぱりだった。
  「新しい荷物が入ったよ。パントタイム。ああ、白塗りのやつ。
  「しゃべらないの。しゃべれないんじゃなくて、しゃべらないの・・・

 ・電報といえば、そのころ電話があれば金持ちだ。呼び出し電話、知ってる? 
  500mでも呼びに行った。あの優しい日本人は、どこへ行ったのだろう。

5.浅草松竹演芸場
  六区のにぎわいはすごく、道を横切るのも大変だった。
  浅草はいやな町。下町の人情があるなんていうけど、誰ももどらない。

 ・ただし、この二人は異色。
  メリケンの川上・塩辛声の侠客で、芸人を大切にして、拍手を強要したりする。
          国定のかしもとをどう思いますか? 次郎長は? 
  浮浪者の清くん・一人前の役者からだけ、ゼニをねだる。
          木島則夫のヤラセ番組。名古屋城のルンペン。
          「ここにいるのはみんな役者だ。においがない」と怒る。

 ・トリオザパンチとぼくらのスタミナトリオの差。名前でもう負けている。
  ぼくらはラグビーのネタをやった。他にちゃんばらトリオなどがいた。

 ・おれたちゃギャングだ。バン、バン、バーン。かっこいいとこ見せる。
  いくら打っても当たらない。→公団住宅入居申込書を出す。(内藤ちん作)

 ・かたつむりが1日1尺、壁をのぼる。
  1週間でどれだけのぼるか? 7尺。ハズレー。壁は6尺しかない。
  7尺。ハズレー、日曜日がある。そんな低俗なことで笑わせていた。

 ・侍の格好をして、ふんどしのヒモをひっぱり出し、
  うどんのようでうどんでない、そばのようでそばでない、ペンペン、
  それを何かとたずねたら、あ、寒天、寒天、だなんて。どういう神経だ。

 ・軍人の格好をして、「反射神経をつけよう。赤あげて、白あげない」だって。
  腰にさしたサーベルは一体なんだったんだ。

 ・関西の吉本は芸人を抱えていた。月に1度(10日間)は寄席に出す。
  新しい出し物を考えなければならないから、活気がある。
  「ラッパでーす。アホでーす」 まるでラッパの顔。
  こうやれば、ぼくもそこそこ行ったかも。でも、ぼくは新劇にあこがれた。

 ・東京の松竹は映画と歌舞伎を持っていたから、お笑いを見下していた。
  芸人を抱えなかった。温情的とはいえるが、みんな、なまけちゃう。
  なかには同じ芸を30年もやるやつが出てくる。
  「サラリーマンはいいな、1年にたった1日だけ働けばいいんだもん」

6.こわい顔を生かす
  一人になってからも浅草に出た。女房が飲み屋をやって生活を支えてくれた。
  失敗談をやると客は喜ぶ。サルやトリの芸が受けた。

 ・顔がこわい。車内でタバコをすってる男をにらみつけるだけでいい。
  たまに、もっとこわいのがいて、どなり返される。
  「すみません、火を貸してください」

 ・元検事定年退職のマージャン。
  検事なんて人に嫌われる仕事だね。ぼくは人に喜ばれる仕事をしている。

 ・満員電車の痴漢。ぼくが疑われる。
  ぼくはスケベではない。でも、くっつくなら女性のほうがいい。
  男のほうに押されたら踏ん張る。女のほうに押されたら、そのまま。
  疑われないように両手で吊り革をつかむ。グラーン、グラーン、なんて。

 ・電車の中で足を踏まれても、日本人は騒がない。フランスだったら大変だ。
  電車をおりて議論する。電車に残ったのは、当事者二人だけだったりして。
  
 ・内藤ちんはコピーがうまい。マルセはなぜ売れないのか。
  おれたちゃ直木賞だが、マルセは芥川賞だ。だから売れないんだ。
  変な理屈だが、なんとなく悪い気はしない。

 ・12チャンネルのある番組で「永さんは大恩人ですね」と言われた。
  そうだけど、そういう言い方を永さんは気に入らないと思う、とぼく。
  「永六輔ほどの人が、マルセ太郎の前を素通りできるはずがないだろう」

7.ヘビは鳴く
  浅草には香具師がいっぱいいた。それで、だまされることに鍛えられた。
  「ヘビは鳴く。いまは季節じゃないが、ヘビは鳴く」 
  本当かよ、と人が集まる。青大将が鉢巻きしてる。妙な薬を売っている。

 ・「法の華」の話。あれは同情できない。だまされるほうが悪い。
  幸せになりたい? ウソつけ。ほんとは金がほしいんだろ!
  いっしょに1億、手にしよう。がっちり握手!
  福永はうまいよ。手相はだれでも見るが、足は見なかったもの。
  足が汚いのは、当たり前。足を見せる姿勢が、もう負け。

 ・今の人は、優しく言われるより、強く命令されることを好む。
  右翼の出るチャンスだ。危険だね。「あっち向け」「はーい」なんて。

 ・ちょっといい話があって、それを聞かせる人がいれば、
  人生はそれほど捨てたもんじゃない。・映画『海の上のピアニスト』より。

 ・ぼくの『息子』を見て、当の山田洋次監督が、
  「あそこは、そういう意味があったんですか?」だって。

8.国旗と国歌
  映画『パリ燃ゆ』の場面。フランス軍と連合軍のパリ入城。手旗がふられる。
  誰とはなしに歌いはじめる「ラ・マルセーユズ」。やがて、大合唱になる。
  若い娘が戦車にのぼり、兵士とキスする。
  (ほんとはフランス軍は弱かった。ドゴールはイギリスに逃げていたんだ)

 ・はたして、日本でこういう場面が想像できるだろうか? 
  侵略者との戦いに勝利して、自衛隊が第二国道を行進する。
  いろいろあったが、神奈川県警も協力をする。ありえないことではない。
  沿道ではちぎれんばかりに手旗がふられる。皇居前に群衆があふれる。
  若い娘が戦車にのぼり、兵士とキスする。ありえないことではない。
  いまの子なら、体まであげちゃうかもしれない。

  そして、誰とはなしに歌いだす歌が・・・・あるか?
  「君が代」じゃ気勢が上がらない。
  だいいち、誰が「みなさま、ご起立を」と言うんだ。
  しかたない、しばらくは東京音頭でがまんしよう。
                            
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